推薦図書 VOL.8
小さい子どもと大好きなおもちゃの親密で温かな関係がストレートに伝わります。
推薦文:吉田有子
「かしこいビル」
作 ウィリアム・ニコルソン 訳 松岡享子 株式会社ペンギン社発行
おばさんの家に招待されたメアリーに、置いてきぼりを食らった人形の兵隊ビルが、走って、走って、とうとう追いつく、という楽しくて温かい気持ちになる絵本。簡単な文章と物語の流れを丁寧に伝える絵が、小さい子どもと大好きなおもちゃの親密で温かな関係をストレートに伝えます。
物語全体にあふれている温かさ、くつろいだ伸びやかさは、作者の父と幼い娘が、二人の知りつくした世界で共に物語を楽しんでいることを感じさせます。私は、この絵本を豊かな心を育てるための物語としてお薦めします。押しつけがましい説明はなく、読んでもらっている子どもたちが、メアリーになって同じ気持ちを味わえるところが、とてもいいのです。我が家の3人娘が何度も何度もリクエストした絵本です。
メアリーはおばさんの家に滞在するために、自分でトランクに荷物を何回も積めなおすのですが、その時子ども自身も「一つひとつ大事なものを思い浮かべ」て、絵を確認しています。その過程でメアリーが「置いていくわけにはいかない、かしこいビル」を忘れてしまうのですが、その時の子どもたちの残念で悔しそうな表情といったら…!!
それでもビルは汽車に追いつこうとして、必死に走ります。「走って、走って…」のくだりは大合唱。とうとう汽車を追い越し、大好きなメアリーのもとへたどりつくのです。「もう、これには、拍手喝采!万々歳!!」。これ以上ない驚きと喜びを、メアリーとともに子どもたちも味わうのです。
幼い頃に大事にしていたもの、またその気持ちを思い出させ、味わわせてくれる一冊です。
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